第2章
今度こそ彼は振り返り、その顔に浮かんだ信じられないといった表情が、私の胸を鋭く貫いた。
「正気か?誰かが自殺しようとしてるんだぞ!」
「いいえ、そんな人いないわ」
その頃には、何台もの車が停まり始めていた。結婚式の招待客たちが車から降りてきて、ちょっとした人だかりができている。ざわめきや、ひそひそ話が聞こえる。誰かがスマートフォンで写真を撮っていた。
春美さんが、青ざめた顔でこちらに近づいてきた。
「結希、理解できませんわ。どうしてそんなに平然としていられるの?」
どう説明すればいい?この女の子が何か月も浅野安樹にメールを送り続けていることを、どう伝えればいい?彼が削除するメッセージを私が見てしまっていることを?彼女が、浅野安樹が毎週火曜の朝にコーヒーを買いに行くカフェで働いていることを?彼女は自殺者なんかじゃない――計算高い女なのだと、どう言えば?
「彼女が誰なのか、知っているからです」
私はただ、そう言った。
「結希!」
浅野安樹の声は今や苛立ちで鋭くなっていた。
「彼女が誰かなんてどうでもいい!危機的な状況なんだぞ!」
橋の上から、白鳥日菜の声が午後の空気に完璧なほど響き渡った。
「お願い!こっちに来ないで!私……もう、耐えられない……」
彼女の演技は完璧だった。震える声、涙、そして絶望的に見えるけれど、実際には危険がない絶妙な力加減で手すりを握りしめている様。
浅野安樹が、橋に向かってもう一歩踏み出した。
「そこまでよ」と私は言った。
「安樹、もし彼女の方へもう一歩でも進んだら、この結婚はなしにするわ」
完全な沈黙が落ちた。
春美さんも、倉持早苗も、花婿の付添人たちも、車を停めた見ず知らずの他人たちも――誰もが、衝撃に目を見開いて私を凝視していた。
「結希……」
浅野春美さんの声は、かろうじて聞き取れるほどの囁きだった。
「本気じゃないわよね」
「本気よ」
浅野安樹が今度は完全に私の方を向き、その瞳に、今まで見たことのないものを見た。軽蔑。
「君は誰だ?」
彼は静かに言った。
「俺が愛した女は、絶対に、絶対に、誰かが死ぬのを黙って見ているような人間じゃなかった」
ほら、来た。彼はもう彼女を選んだのだ。まだ自分では気づいていないかもしれないけれど、見てよ、その立ち姿を。まるで私が脅威で、彼女が救われるべき犠牲者であるかのように、私と対峙している。
「あなたが好きになった女は、三文芝居に騙されるほど馬鹿じゃないのよ」
私は言い返した。
「芝居ですって?」
春美さんが一歩前に出て、声を震わせた。
「結希、あの子は苦しんでいるのよ。見てあげて!」
私は見た。白鳥日菜は、完璧な涙を頬に伝わせながら、このやり取りの一部始終を見つめていた。でも、私は彼女が陣取った場所にも気づいていた――すべての車から彼女が見え、浅野安樹がヒーローを演じるのに完璧な角度で、午後の光が彼女をこの世のものとは思えないほど悲劇的に見せる、そんな場所に。
「浅野安樹」
白鳥日菜が呼びかけ、私の血は凍りついた。
彼女は彼の名前を知っていた。
「安樹さん、お願い、あの人たちに止めさせないで!私にはもう、あなたしかいないの!」
浅野安樹は衝撃を受けたような顔をした。
「どうして彼女が――結希、どうして彼女が俺の名前を知ってるんだ?」
私が答える前に、白鳥日菜はさらに声を上げて泣きじゃくった。
「ごめんなさい!ここに来るべきじゃなかった!でも、最後に、もう一度だけあなたに会いたくて……その、前に……」
春美さんが私の手をつかんだ。
「結希、お願い。ここで何が起こっているにせよ、後で解決できるわ。今は、命がかかっているのよ」
浅野安樹はすでに橋に向かって歩き出していた。消防士としての訓練が、他のすべてに優先したのだろう。
「だめ」
私は言ったが、声はかすれていた。
「安樹、もし彼女のところへ行ったら、私たち、終わりよ」
彼は立ち止まり、もう一度だけ振り返った。
「なら、終わりだ」
彼は静かにそう言った。
そして、橋に向かって走り出した。
ああ、やっぱり。私と彼女――その見せかけの危機でさえ――どちらかを選ぶ場面で、彼は彼女を選んだのだ。私たちの結婚式の日に。私たちの知人全員の前で。彼は彼女を選んだ。
私は、自分の婚約者が別の女のもとへ走っていくのを見つめていた。そして、私が計画してきた人生が、たった今終わったのだと悟った。
浅野安樹は橋にたどり着くと、低く、なだめるような声で白鳥日菜に話しかけ始めた。
私はその場で立ち尽くし、浅野安樹が白鳥日菜をなだめすかして手すりから離れさせようとするのを見ていた。やがて、周囲のひそひそ話が耳に入ってきた。
「信じられる?あの人」
「自分の結婚式の日に……」
「あのかわいそうな子、死ぬところだったのに、あの人ったらただ突っ立ってただけよ」
倉持早苗が私の肩に触れた。
「結希、私たち、そろそろ――」
「そろそろ何?」
私は彼女の方を向いた。
「彼の英雄的行為に拍手でも送りに行けって言うの?」
浅野春美さんが心配そうな顔で私たちの間に割って入った。
「結希、ショックを受けているのね。これは誰にとっても辛いことだけれど――」
「『けれど』も何もありません、春美さん」
私は未来の義母――一時間前には私のことを娘と呼んでくれたこの女性――を見つめた。
「あの子は自殺者なんかじゃありません。計算高いだけです」
「どうしてそんなことが断言できるの?」浅野春美さんの声が少し上ずった。
だって、何か月もあの子が私の夫になる人の周りをうろついているのを見てきたから。だって、あの子が都合よくクッキーを持って消防署に現れるのを見てきたから。
でも、そんなことは何も言えなかった。ここで、今、招待客の半分がスマートフォンでこの様子を録画しているような状況では。
「ただ、分かるんです」
私たちの周りでは、さらに車が停まっていた。町中に噂が広まっていた――旧水車の橋で何かあった、と。
食料品店の渡辺さんが、心配そうな顔で近づいてきた。
「結希さん、彼女のご両親に連絡しなくていいのかしら?」
「ご両親を煩わせる必要はないと思います」
私は平然と答えた。
渡辺さんが私に向けた視線は、突き刺すように冷たかった。
春美さんは、増え続ける野次馬から離れた場所へ私を引っ張っていった。
「結希、お願いだから説明してちょうだい」
彼女は優しく言った。
「あなたらしくないわ。私が知る中で、あなたは誰よりも思いやりのある人よ。動物保護施設でボランティアをしたり、出来の悪い生徒のために遅くまで残ってあげたり……」
春美さん。優しくて、人を信じやすい春美さん。彼女はまだ、私も含め、すべての人の善意を信じている。きっとこれは結婚式の日の緊張か、一時的な気の迷いだと思っているのだろう。そんなに単純な話だったら、どんなにいいか。
「時には、悪い行いを助長しないことが、思いやりになることもあるんです」
私は言った。
「悪い行い?結希、あの子は明らかに精神的に追い詰められているのよ――」
「明らかに芝居を打っているだけです」
今度は春美さんの顔に傷ついた色が浮かび、それが何よりも深く私を抉った。
「どうしてそんなことを言うのか、私には分からないわ。昨日は結婚式を楽しみにして、幸せそうで、輝いていたのに……。今日のあなたは……」
「今日の私が、何ですって?」
「冷たい」
その言葉が私たちの間に漂った。
「そんなあなたは見たことがない。怖いくらいよ」
冷たい。それが今、彼女が私に抱いている印象なのだ。私を娘として迎え入れようとしてくれたこの人が、今では私のことを冷たい人間だと思っている。でも、私にどんな選択肢がある?彼女が抱く息子のイメージを壊さずに、どう説明すればいい?
「時には、冷たくならなければ、物事がはっきり見えないこともあるんです」
私は静かに言った。
私たちが立っている場所から、浅野安樹がゆっくりと白鳥日菜に近づいていくのが見えた。彼の声は水面を渡って聞こえてきた――穏やかで、プロフェッショナルで、訓練された声だった。
「君の名前は?」
彼が尋ねた。
「白鳥日菜です」
彼女はか細く、途切れ途切れの声で答えた。完璧な被害者の口調だ。
「分かった、白鳥日菜さん。俺は浅野安樹。この町の消防士だ。君がどんな辛いことを抱えていても、一緒に乗り越えられるってことを知ってほしい」
彼はこういうのが上手い。そこは認めざるを得ない。自分が救助活動をしていると心から信じている。自分が専門家に操られているとは、夢にも思っていないのだろう。
「何もかもが、すごく辛いの」
白鳥日菜はすすり泣いた。
「もう、どうしたらいいか分からない」
「分かるよ。でも、これが答えじゃない。君を心配している人たちがいる。助けたいと思っている人たちがいるんだ」
周りの人々は、感心したようにざわめいていた。
「彼を見て」
「なんてヒーローなの」と誰かが囁いた。
「あの子、彼がいてくれて運が良かったわね」
そして、案の定、こんな声が聞こえた。
「婚約者の方は、残念だけどね」
